歴代興行収入を塗り替えた『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』、現在大ヒット公開中の『シン・エヴァンゲリオン劇場版』
どちらも大規模で公開しており、特に前者に関しては普段大作を取り扱っていないような「ミニシアター」や地方にポツンとある田舎の「単館系の映画館」でも上映しており未だかつてない公開規模である。
公開規模は鬼滅>エヴァのため、エヴァを公開していないシネコンはいくつかあっても鬼滅を上映していないシネコンはほぼない。
・・・しかしながらこのどちらも上映していないシネコンがある。それが大阪はミナミ・難波に構えるシネコン「なんばパークスシネマ(以下、パークス)」なのである。
そもそも「なんばパークスシネマ」ではなぜ上映していないのか?
映画館にとってみればどちらもヒットは確実で「上映したくない」と断る映画館はまずないであろう。しかしながらなぜパークスでは上映していないのだろうか?それは「大阪市内に構えるシネコンが抱える大人の事情」があるからである。
「なんばパークスシネマ」は松竹と東映のシネコンチェーンが手掛ける映画館
この映画館は少し特殊であり、普通のTOHOシネマズやイオンシネマとは異なり「共同経営劇場」というか関与する資本が複数あるという事情を持ちます。厳密にいうとパークスは松竹系でMOVIXやピカデリーのブランドで知られる「松竹マルチプレックスシアターズ(SMT)」と東映系の「ティ・ジョイ(TJOY)」が共同経営する劇場で運営はSMTが行っています。
大阪市内には今でも面倒な配給事情を抱える
大阪市内で映画館を見る人であれば「なんで梅田ブルク7やパークスでコナンやってないんだ?」「なんでTOHOシネマズで○○やらないんだ?」といった疑問を感じる人も多いのではないだろうか?
簡潔にいうと大阪市内は運営シネコンで上映できる作品もほぼ決定しており、実質「関与している資本系の配給作品しか上映できない」というルールみたいなものがある。
梅田エリアにはシネコンが3館
- 「TOHOシネマズ梅田」→TOHOシネマズ
- 「大阪ステーションシティシネマ」→TOHOシネマズ/SMT/ティ・ジョイ
- 「梅田ブルク7」→ティ・ジョイ(※開業当初はSMTも共同経営していた)
「東宝」「松竹」「東映」系シネコンチェーンが各々運営する映画館が勢ぞろいしています。しかし残念ながら洋画大作を除いて、基本的に3館全てで上映される邦画はほぼほぼ皆無といっても過言ではないでしょう。
実例を挙げていくと東宝配給作品は資本が関与する「TOHOシネマズ梅田」「大阪ステーションシティシネマ(一部作品のみ)」での上映が原則であり、東宝系の資本が関与しない「梅田ブルク7」で上映されることはまず特例を除き一切ない。
逆に松竹や東映配給作品は資本が関与する「大阪ステーションシティシネマ」「梅田ブルク7」では上映されますが、資本が全く関与しない「TOHOシネマズ梅田」では一切上映されていない(はず・・・)
そうなるとこれら3つの系列が関与する「大阪ステーションシティシネマ(以下、ステシネ)」最強なのでは?と思うかもしれないですがそれが意外とそうでもない。というのも「鬼滅の刃」公開当初はこのステシネでは上映されていなかったのである。
ここからは関係者ではないのであくまで予想ですが「鬼滅の刃」の配給は東宝とアニプレックス。東宝が関与する以上TOHOシネマズで上映するのはもちろんですが、もう片方の配給がアニプレックスであり、主としてアニプレ配給作品を主として上映している「梅田ブルク7」が公開劇場として選定されたものと思われます。
※ちなみに予想以上のヒットを受けてか、10月16日の本公開から遅れること半月~1か月後にステシネでも鬼滅が公開されています。(一応東宝の資本が関与しているため可能となったレアケースでしょう。この結果梅田エリアの全シネコンで鬼滅が上映されることに。)
なんばエリアのシネコンは2館
なんばも梅田同様の感じで東宝配給作品はTOHOのみ、松竹・東映配給作品はパークスのみでの上映と完全に棲み分けられています。
「鬼滅」はともかく、「エヴァ」は東映が関与してるのになぜ?
鬼滅は配給が「東宝」「アニプレックス」とパークスの資本に全く関与しない会社が担っているので縛りで上映できないのも仕方ない。さらにいえばアニプレも映画館自体は系列として保有はしていないがどちらかといえば難波エリアではTOHOシネマズが普段からアニプレ作品を上映するのでパークスで上映しないのは致し方ないことでしょう。
しかし、エヴァに関しては「東宝」「東映」「カラー」が配給として参加しているかつ新劇場版Qまでパークスで上映していたので私もてっきりシンエヴァは上映するもんだと思っていました。しかしながら蓋を開けてみればTOHOシネマズでの上映、パークスでの上映はなしであった。
あくまでSMT運営であるということが大きいか。
前述のとおりパークスは東映系の資本が関わっているとはいえ、運営自体は松竹系の「松竹マルチプレックスシアターズ(SMT)」が行っています。梅田に構えるステシネも東宝と東映系の資本が各々関与していますがあくまでSMTが運営しているからか唯一エヴァが上映されていません。
これがもし仮に「東映」ではなく「松竹」が配給に参加していればパークスでも意外と上映された可能性はあったかもしれません。ただし配給の序列としては三社の中でも東宝が一番上にいそうなのでどのみちTOHOでしか上映しなかった可能性も高そうですが。
(おまけ)エヴァンゲリオン劇場版の配給会社の推移
旧劇場版
- 『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 シト転生』(1997)・・・東映
- 『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』(1997)・・・東映
新劇場版
- 『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』(2007)・・・クロックワークス/カラー
- 『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』(2009)・・・クロックワークス/カラー
- 『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』(2012)・・・ティ・ジョイ/カラー
- 『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(2021)・・・東宝/東映/カラー
さいごに
『シン・エヴァンゲリオン劇場版』は「東宝」「東映」「カラー」の三社共同配給という前代未聞の体制をとっています。共同配給というのは二社共同ぐらいは結構あってそこまで実は珍しくもないのですが三社共同というのもかなり異例であり、さらに東宝と東映が共同配給で肩を並べるということはおそらく初の事例であり、知る人ぞ知るかなり衝撃が走るニュースともいえるでしょう。
総監督である庵野さんが映画が始まる際の「東宝」のピカーンと光るロゴ、「東映」の波漂うロゴのシーンを一緒に並べるというのが長年の夢だったようですね。一般の人には細かすぎて分かりにくいかもしれませんがそういう背景を知ってると少し感慨深いかもしれません。
いくら庵野監督の希望とはいえ東宝と東映が容易にタッグを組むとも思えませんし、前者では「シン・ゴジラ」での実績、後者ではこれまでのエヴァでの実績を信頼されたうえでの夢の実現かなと思います。